仕事帰りのあなたと待ち合わせ。スマホにお互いの服の色の情報が届く。それを手がかりにあなたを見つけ出そうとするが人混みが邪魔をする。その時すぐ後ろから私を呼ぶ声。深緑とあなたの香りが軽く私を包み込む。だいぶお疲れのご様子だ。疲れには甘いもの…

次の交差点を右、しばらく道なりです。ナビの音声のような流暢な発音で私の左隣からスマホのナビ片手にしたあなたの声がする。お散歩の多い私たちだが、今日はちょっとだけ遠出したくなって、待ち合わせ場所からほど近いところでレンタカーを借りた。車の中…

趣味が違うところもある。だって全く同じ人間なんていないし。世界だってばらばらのまま。広いけど人が多いホールで、私たちは決断に迫られていた。もうすぐ予告が始まるであろう時間、どの映画を観るかで意見が割れている。割れていると言うか、二人ともど…

部屋を暗くして、月の形に似た灯をともす。さっき入れた日本酒の中で氷が回り、カランと音がする。最近あったこと、これからのこと。ぽつりぽつり、あなたと私、順番に話す。素敵なものを見つけたこととか、ちょっとおっちょこちょいをしたこととか、そろそ…

菜の花のおひたし。えのきの梅干し和え。茄子の生姜焼き。キュウリとアボカドの塩昆布サラダ。アボカドの漬け。それから、それから。帰りが遅いあなたのために、メイン料理に添えてすぐに出せる常備菜を仕込む。丁寧に保存容器に移して、ラベルを貼って、ふ…

二人並ぶのにちょうどいいキッチン。休みの日の楽しみ、私が刻む野菜の音を聞きながらそっとあなたはそれを入れる器を差し出す。次は何をしましょうか？なんて顔をしているから、こういう時間にぴったりの音楽をかけてと頼んでみる。ピアノ曲や懐かしい曲、…

少しガタつくベンチに座って、あなたを待つ。朝のしんとした空気に背筋も伸びる。リュックの中の持ち物の確認は10分前にしたし、あなたが勧めたガイドブックの要所も今さっきチェックしてポケットにしまった。なので背筋を伸ばしてあなたを待つだけなのであ…

好きなものを見ている時間が一番大切なのかもしれない。小さい四角を肩を寄せ合って、小さくまとまって観る。飲み物はこういう時炭酸がいい。盛り上がるツボが同じだったり、違ったり。感想を言い合うと、たしかにとなるほどの連続だったり。共有していく時…

外の湿度と同じくらい目の周りの湿度が高い。クッションはシワシワになってしまって、体育座りをしたおしりが畳の凸凹の痛みに根を上げるほど座って泣いていた。ほんのちょっとの言葉尻に対して摩擦が起きてしまった。理由よりも摩擦が起きたことの方が悲し…

晴れた空がピンクになった頃にその麓までしりとりをしながら歩く。大抵の場合「る」だったり「ど」だったりが最後に来る単語を言われて悩む私のターンが長い。そうやってアカデミックなからかわれ方は私は嫌いじゃない。 ここは東京の桜の隠れた名所のとある…

初めて降りる駅で特に方角も決めずに歩く。その町の町内会のポスターとか、ガラスに映る木漏れ日とか、ゆったり歩く恋人の靴とかを一枚一枚、ミラーレス一眼で捉える。恋人と木漏れ日を取ろうとした瞬間、何撮ってんですか、と気づかれてしまう。私はわざと…